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エフォートレスなパリジャンたちが目に止めたことで火が付き、注目を集めているメイド・イン・ジャパンのスニーカーがある。福岡県久留米市に本社・工場を構えるアサヒシューズ(以下、アサヒ)のシグニチャーブランド「Asahi」のバルカナイズスニーカーだ。
アサヒは、1892年創業、足袋の製造から始まり、日本にシューズ文化が根付き始めた黎明期より靴製造をおこなっている老舗メーカー。その技術力は世界も認め、1970年代、ナイキがブランドスタート時に製造工場として白羽の矢を立てたのもアサヒだった。
140年続く老舗メーカー
アサヒシューズの製造技術に新たな光を
「アサヒは、多くの人は“小学校の上履き”のイメージかもしれませんが、実は1964年東京オリンピックの聖火ランナーも着用していたほど、スニーカーの製造技術は高水準。さらに、ゴム練りから始まり、ソール形成、アッパー縫製、組み立てまでの一貫生産を実現しているのは、世界的に見てもとてもめずらしいんです」。
そう話すのは、「Asahi」の監修を努める牟田裕一氏だ。自身も久留米生まれの久留米育ち。10代から地元の老舗履物店に勤務後、アメリカ買い付けによるスニーカーショップの立ち上げ、東京暮らしや飲食店経営などを挟みながらも地元に根づき、2012年同市内にセレクトストア「PERSICA(ペルシカ)」をオープン。自身がスニーカーブランドを立ち上げる際、かねてより親交のあったアサヒ工場に製造を依頼したことをきっかけに、2017年、協業というかたちで旧ロゴを復活させた新ブランド「Asahi」が始まった。
久留米のゴム素材と100年技術で挑んだ「Asahi」ブランド構想
「『Asahi』で展開しているのは、ミニマルなデザインとラバーソールが特徴的なバルカナイズスニーカーです。その魅力は、ゴム産業で大きくなってきた久留米ならではのゴムの品質、そして見た目の美しさと履きごこちを大きく左右する、ラバーテープの接着技術。この2つは、僕が知る限り世界水準のレベルです」。
アサヒがつくり続けてきたバルカナイズスニーカーは、世間を賑わせるハイテクスニーカーのようなわかりやすいインパクトはない。誤解を恐れずに言うならば、素っ気ないほどミニマルだ。



「100年以上前から続く工場で、約50年前の機械を使い、当時の技術を磨き上げながらつくられているアサヒの靴。それが意味するのは、先人達がすでに、隙のない美しさを完成させていたということ。究極的にそぎ落とした、無垢な存在感こそがアサヒにしか出せない魅力です。そこをどう伝えていくかが、『Asahi』ブランド立ち上げの鍵でした」。
アサヒスニーカーの素の美しさを緻密に磨き上げ、新たな魅力に
1970年代、スポーツシューズと呼ばれていた時代からのバルカナイズスニーカーを熟知した知識と感性は、インポートスニーカーを扱ってきた経験を持つ牟田氏の強みだ。「Asahi」立ち上げに際しては、まず「ASAHI DECK」「ASAHI BELTED」「ASAHI TRAINER(現在終了)」の3つのシリーズに分類。受け継がれてきたものを元に、アサヒの熟練のパタンナーにパターンを再構築してもらい、微調整を重ね理想に近づけていく。
そんな作業を繰り返す中でも、牟田氏が言うところの「究極的にそぎ落とした、無垢な存在感」を生かすことを念頭に。「『牟田はいったい、どこに手を加えたのか』と思わせるほど、 “ありのまま”を磨き上げることが今回の仕事なのだという確信がありました。それくらい、アサヒがつくり上げてきた素の美しさがすばらしかった」。
そんな中で、唯一目を光らせたのはスニーカーならではの造形美だ。履いた人の足元を他人が見るときは、正面、サイド、後ろといった角度が多いが、本人が見下ろした時の真上の顔も大切に。外形だけでなく、タンのカーブといった細部のデザインにこだわり抜いた。
またバルカナイズスニーカーのフォルムを決めるラバーテープは、サイド38mm、つま先35mmと絶妙に高さを変えることで、3mmが美しいフォルムを実現。浮きのないみごとな接着には、もちろんアサヒが培ってきた知見と技術が生きている。
どんな着こなしも“スタイル”になる
「ASAHI DECK」の白スニーカーを
新たなオールタイムスタンダードに
クワイエット・ラグジュアリーという言葉をご存じだろうか。文字通り、「静か」ながら、見えない力で人の目を、心を引きつける新しい美意識だ。「Asahi」のバルカナイズスニーカーはまさに、控えめな、けれど強い存在感を放つクワイエット・ラグジュアリーだ(アサヒの歴史の中で、かつて世界的モードブランドの製造を受けていたという事実が実はあるが、表立って語られてこなかった奥ゆかしさも通じるものがある)。
静かさ故、並んでいる「Asahi」を眺めただけでは、もしかしたらその魅力を見逃してしまうかもしれない。
だからこそ、まずはぜひ履いてみて欲しい。おすすめは、「Asahi」ならではのミニマルな美しさが際立つ白。カジュアルもジャケットスタイルも、どんな着こなしも、一気に“スタイル”になるから不思議だ。
「手仕事と古い設備だからこそ生まれる、ヴィンテージスニーカーのような風情も『Asahi』の魅力のひとつ。かつてのように汚れすらも味わいにして、洗いこんで、先人の美意識と情熱を楽しんでもらいたいですね」。